一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 美礼から貰ったケーキと、大智の淹れた紅茶で、束の間のティータイムを楽しむ。話すのは平穏な日常のことや、今食べているケーキの話。
 彼はあまり甘いものを食べないらしいが、昔から知っているこの店のチーズケーキだけは食べるのだと言う。

「昔から、美礼の家に来ると用意してくれていたな。このチーズの風味と、ほんのりと感じる塩気が気にいってるんだ」

 垣間見る彼の自然な姿に表情が緩む。しばらく、そんな会話を楽しんだ。
 皿の上が綺麗になると、お礼代わりに片付けを申し出た。それが終わりとソファに座る大智の元へ戻った。彼はさっきまでの表情と打って変わり、険しい表情で視線を落としていた。

「あまり楽しい話じゃないけど。話しておきたい」

 そう前置きし、大智はポツポツと語り始めた。
 自分の家のこと、育った環境に家族のこと。そして美礼との本当の間柄を。
 彼が前に『血が繋がっていても諍いは起こる』と言ったのは、職業柄出た言葉ではなく自分自身の経験からだったのだと思い知った。
 大智は暗い表情のまま淡々と話し続ける。

「祖母のしたことを許せるかと言われれば、すぐに許す気持ちにはなれない。けれど……祖母も寂しい人だったんだ」

 彼は、祖母が美礼にしてきたことを話してくれた。その上でこう言ったのだ。そしてその詳しい内容を話し始めた。

 彼の祖父母はいわゆる政略結婚で一緒になったのだという。裕福な家柄だった祖母は、厳しい経営を続けていた祖父の家に援助する約束で嫁いできた。ただしそれは、祖母のたっての希望で。
 彼女は、一目惚れに近い状態だった祖父と、将来を約束した女性を別れさせてまで結婚したのだった。
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