一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 歩き出した大智に寄り添うように歩きながら尋ねる。"そういうこと"をする場所など思いつかない。もちろんラブホテルの存在は知っているが、じゃあこの近くにあるのかと問われても、由依が知っているはずがない。かと言って、家に来ますか? とも、行っていいですか? とも聞けない。

「実は今日、駅前にあるホテルを予約してあるんだ。飲みに行くときはいつもそうしていて。家が少し遠くて、普段は車で通勤しているから」

 ようやくそれで、別れ際に与田が言った『今日はそっち』が腑に落ちた。

「そうなんですね」

 由依がそれだけ返すと、会話はなくなり足音だけが響いた。

(それにしても……大きな手……)

 しっかりと繋がれた手を意識して思う。
 普段子どもたちと手を繋ぐことはある。愛らしい小さな手を握ると、ギュッと握り返してくれるその手がとても愛おしくなる。けれど今は、自分の方が小さくて、安心感のあるその手の中にある。

(今だけ、だから……)

 勘違いしてはいけない、と嗜める。まるで恋人のように優しく繋がれた手を、もう離したくないと思ってしまう自分を。
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