たゆたう、三角関係
駅前
駅ビルの足元の広場のベンチに腰掛ける。鳩がたくさんいる。なんで駅に近くなればなるほど鳩は増えるのか。誰かがコンクリートブロックの地面に落とした食べこぼしを丁寧に一つ一つくちばしで拾い集める姿を見つめていた。

「おはよ」

見上げると晴人が信号を渡ってきたところだった。黒いキャップに大きめのヘッドホンを首にかけ、黒いマウンテンパーカのチャックを首元までギュッと上げ、濃い色のデニムを合わせていた。

「不審者っぽいよ」
「捕まりそう?」

あはははと笑いながら彼は私の隣に座った。肩同士が触れ合って、カサッとマウンテンパーカの化学繊維が擦れる音がした。

「今日どこ行く?」
「目薬買いたいからドラッグストア寄っていい?」

そう言って晴人は目をこする。ドライアイらしい。「今日どこ行く?」は、今日のこのデートのメインを聞いたのに。私たちは何も決めてなかった。

「あとどうする?カラオケ行く?」

晴人はふざけたような口調で言った。

「えー帰ろっかなー」
「まって、決める、決める。待ってね」

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