新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
どうしたんだろう?
高橋さんの顔を見ると、とても哀しそうな顔をしていた。
本当は、聞いてはいけなかったことだったのかもしれない。 今頃になって、自分からしたら興味本位な気持ちも手伝って聞きたがってしまった。 軽々しい言動を、今更ながら後悔した。
「そんな毎日が続いていくうちに、多分……ミサは寂しかったんだと思う。 結婚式まであと10日っていう時に、俺はミサから別れを告げられた」
「えっ?」
嘘でしょう?
何故?
どうして、そんな……。
涙が止まらない。
高橋さんがそんな辛い過去を今、話してくれている。 話してくれていることは、とても嬉しく思う。 だけどそんな辛い過去を聞き出して、何になったんだろう? それなのに、聞きたがった私は人の辛い経験を聞いて、どうしたかったんだろう? 何がしたかったのか……無責任過ぎる自分に腹が立った。
過去は、過去として……NEW YORKで高橋さんが言った言葉が鮮明に蘇る。
それは、こういうことだったの?
こんなにも辛い過去を過去として捉えてくれたことに、何も知らないとはいえ、高橋さんと付き合えたことが嬉しくて喜んでいただけで、その言葉の深い意味を分からないなりにも、真摯に受け止めようとしていた? そんなこと……していなかった。 自分の要求と欲求だけを押しつけて……。
「突然のことで、何がどうしてそうなったのか。 俺には、よく理解出来なかった。 でも、ミサが言ったんだ」
高橋さんが膝の上で、ギュッと両手を握りしめているのが見えた。
「女は、幸せになれるかどうかで男を決めるから。 自分はその幸せになる為に、別の男と結婚すると」
「嘘……」
思わず、声が出てしまった。 でもその声にも高橋さんは動じずに、ジッと私を見つめているだけだった。
「俺も若かったし、どうしても納得出来なくてミサに説明してくれと、しつこく何度も迫ったんだ。 何時から違う男と付き合っていたとか……ミサは、そんな女じゃないと思っていたから。 でも……」
でも……何?
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