新そよ風に乗って 〜慕情 vol.1〜
高橋さんへの想いが溢れている。 
溢れて、 溢れて、 溢れ過ぎて。 
高橋さんへの想いが溢れ過ぎて、 それに溺れているのかな?  
その想いに、 溺れていてもいい。 
今は、 そんな感情だった。
高橋さんは目を開けると、 ジッと私を見つめて流れ落ちる涙の筋をなぞるようにそっと拭ってくれながら、 言葉を発しようとするのがわかった。
「俺に……時間をくれないか?」
「えっ……」
泣いて喉の奥が痛くて掠れ、 声にならない声が空気とともに漏れた。
私が言った事への返事はスルーされてしまったが、 それはもう今の高橋さんのひと言でどうでもよくなっていた。
「いつまでとは言えない。 無責任なようだが、 今の俺にはそれしか……」
泣きながら、 首を横に振り続けた。
もう、 それだけで十分だった。  
十分過ぎる、 高橋さんの応え。
「だが、 それでいい結論が出るとも限らない。 お前に時間を無駄に使わせる事になるかもしれない。 それでもいいのか?」
何度も、 何度も、 目を瞑りながらその言葉を噛みしめるように頷いた。
それと同時に涙がどっと溢れて、 高橋さんの拭ってくれている指だけでは追いつかなくなっている。
「お前。 そこまでして……」
エッ……。
高橋さんは言い掛けたまま私を起こすと、 強く抱きしめた。
高橋さん。
ああ……どんなにこの温もりを欲していたか。 今更ながらに実感した。
高橋さんの温もりに包まれ、 そして仄かに漂うこの香り。
今、 私が一番欲しかったものだった。
止めどなく溢れる涙。
高橋さんの温もりの感触を忘れないようにすればするほど、 涙を止める事が出来ない。
高橋さん……。
心の中で高橋さんの名前を呼ぶ。
きっと、 高橋さんなら分かってくれているはず。 私が今、 高橋さんの名前を呼んでいること。 
分かりますよね? 高橋さん……。

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