花橘の花嫁。〜香りに導かれし、ふたりの恋〜



 それからも綾様は「え、っあ……」と言うだけのため執筆係も戸惑っているし、それを皆が見えない場所から見ていた私はドキドキしていた。

 私は、出て行って助けたほうがいいのかここで待っていればいいのか思えて召人に目線を合わすけど東宮からは“出てくるな”とサインが出されて私は彼女を見つめた。
 
 なんとかしようと綾様は、乱箱に触れるが順番が違っているし連衆たちもヒソヒソと何かを話している。
 順番がグチャグチャのまま香席は進んでいき、手記録紙も出されないまま「お香を始めます」と掠れるような声で綾様は言った。

 テーマすらも綾様は、決まっていなかったためかそれからも散々で終わってしまう。
 これでは国で今は唯一の香道家の跡取りとして最悪で入門仕立ての人よりも酷かった。

 綾様は、顔を青くしながら席に戻る。それを確認すると私は呼ばれた。

 香の間の入り口で手を清めてから入り、慣れた袖捌きでさっきまで綾様が座っていた香元の席へと座った。
 連衆らは、期待していた綾が散々だったため複雑な表情を見せているが私はいつも通りやるだけだと深呼吸をして背筋を伸ばして「お香をはじめます」と告げれば、すると連衆が一斉に礼をした。



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