別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
「……うん」
「じゃあ、今から抱いていい?」
「え、今!?」

 特にルールとして定めているわけではないが、夜以外にその行為に及んだことはない。しっかりと朝の光が差し込んで、とても爽やかな空気に満ちているこの部屋で致すのは、なんだかいけないことをしているような気になりそうだ。

「今からしたい」
「でも、今は……」
「別に朝したって問題はないだろ?」

 問題があるかと言われれば、そうではないかもしれないが、やはり恥ずかしい。それに寝起きの状態そのままというのは落ち着かない。自分の体のあれこれが気になってしまう。

「恥ずかしいし、それに……寝起きはちょっと……いろいろ気になるから……」
「何が?」
「だって、寝汗とか、口の中の細菌とか、いろいろ……」
「瞳らしい理由だな。でも、それなら風呂入って、歯磨けば問題ないってことだな」
「え……」

 確かにきれいにしてしまえば気にならなくなるが、それのためにわざわざ磨くのかと思うとものすごく恥ずかしい。きっと寝る前だったなら、同じことを言われてもさして気にならなかったと思うが、朝一番でという状況が瞳の羞恥心を煽ってくる。

「お湯浸かりたい? それともシャワーでいい?」
「なんでお風呂入ること決定してるの?」
「そんなに嫌か?」

 別に嫌なわけではない。ただただ恥ずかしいのだ。でも、拓海にそんな淋しい顔をさせてまで、恥ずかしさを理由に断るのも違うだろう。どうせ昨日散々恥ずかしい姿を見せたのだし、今さらこのくらい気にしても仕方ない。瞳は嫌ではないと答える代わりに最初の質問へと答えた。

「……シャワーでいい」
「じゃあ、先入ってきて。もしくは一緒でもいいけど」
「……先入る」

 瞳はこれ以上話しているとより恥ずかしくなると思い、さっさとベッドから出て風呂場へと向かった。
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