別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
『まあ……でも、もうくたくただよ。中学生育てるのがこんなに大変だなんて知らなかった』
『やっぱりもうお母さんじゃん……』
『だから、お母さんって言わないでってば』
『わかりましたよ、お姉ちゃん』

 からかってくる芳恵に瞳は文句を言ってやろうかと思ったが、それだと同じことの繰り返しになりそうで言わなかった。代わりに最近考えていたことを口にしてみた。

『私さ、よくわかった』
『何が?』
『自分が拓海にどれだけハイレベルなこと求めてたのか。協力してくれないとか思ってたけど、十分協力してくれてたんだよ……男に同じレベル求めるのが間違ってた……』

 聖と比較してよくわかったのだ。拓海といてもここまでイライラすることはなかった。些細なことで苛立ちを覚えはしても、本当に怒りたくなるほどのものじゃなかった。ちゃんとすべきことはしてくれていたのだと今になって実感したのだ。

『それは人によると思うけどね。男でもきっちりしてる人はいるわけだし』
『そうだけど』
『それに中学生と比較されたらかわいそうだよ。中学生はまだまだ子供なんだから。西浦は結構やってくれそうなイメージだけどね』
『そうだね……最初はかなりやってくれてたかな。最近はちょっと大雑把かなって感じだけど』
『あー、瞳は神経質だもんねー。瞳レベルを求めると難しいかもね』

 芳恵にまでこう言われるということは、やはり瞳が求めすぎていたのかもしれないと思ってしまう。瞳としては加減していたつもりではあったのだが、それは瞳の物差しで測ったものだから、他の人から見ればまた違うのだろう。

『やっぱりそうなのかなー。私がお願いしてるのは習慣にすれば難しくないことだけなんだけどね』
『いや、その習慣化が難しいんだって』
『うん……まあ、でも聖と暮らして、ちょっと反省した。うるさく言いすぎてたのかもって。とはいえ聖のはさすがに許せないけどね』
『聖のことはこれから瞳がきっちり教育してあげなよ』
『する。教育するわ。かわいい聖を取り戻す!』

 瞳は聖への指導に意気込みつつ、拓海にはもっと瞳から歩み寄ろうと心を改めた。自分の気持ちだけじゃなくて、ちゃんと拓海の気持ちも考えようとそう思った。聖の行いは到底許せるものではないが、それでも今の気持ちに気づかせてくれたことに瞳は心の中で少しだけ、ほんの少しだけ感謝したのだった。
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