別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~

2. 失言と後悔

 別居を始めて二週間ちょっとが経った頃、瞳が仕事で必要なものがあるからと荷物を取りに戻ってきた。連絡なく突然戻ってきたものだから、拓海は何も取り繕うことができず、瞳が家の中のあれこれに目を向けるたびにそわそわとしてしまう。拓海としては問題ないと思う程度に片づけているが、瞳の要求レベルに達していないことはわかっている。瞳が今の家の状態を見て、何か言ってくるんじゃないかと思うとどうにも落ち着かない。まるで抜き打ちチェックを受けているような気分だ。

 このまま何も言わずに去ってくれないかなんて思っていた拓海だが、瞳がリビングにある弁当の空き箱が入った袋やテーブルの上に置きっぱなしにしている物たちに目を向けたとき、瞳の口が開くのがわかって、これは何か文句を言われるなと思った。

「やっぱりそこは片づけてないよね。でも、拓海は」
「はあー。うるさいなー。わかってるって」

 拓海は瞳の言葉を遮って大きなため息をつき、ついそんな言葉を口にしてしまった。文句を言われるのが嫌で言ってしまったが、さすがに今のは感じが悪かったと思う。すぐに後悔の念が押し寄せる。これは瞳を怒らせただろうと瞳の様子を窺えば、瞳は悲しげな表情をして拓海を見ていた。

「……うん」
「ごめん……」
「ううん」

 瞳は切なそうな表情を浮かべている。その表情に胸が痛くなる。それは怒られるよりもずっとつらかった。結局、瞳はそれ以上は何も言わずに、必要なものを取るとすぐに玄関へと向かってしまった。

「じゃあ、私もう戻らないといけないから、家のことよろしくね」

 最後は笑顔を浮かべてくれたものの、瞳はそれだけ言ってすぐに実家へと帰ってしまった。
< 21 / 156 >

この作品をシェア

pagetop