別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~

4. 孤独な時間

 拓海は瞳との電話を終えてすぐに、瞳が気にしていた辺りを片づけはじめた。先ほどの出来事をなかったことにはできないから、今できることをやろうと思ったのだ。きっとそれは願掛けにも近かったと思う。瞳がちゃんとこの家に戻ってきますようにとそう願いを込めて片づけた。

 そして、この日以来、拓海は瞳のことを考える時間が多くなった。ふとした瞬間に瞳のことが頭をよぎる。快適だと思っていた一人暮らしは孤独な時間へと様変わりしてしまった。

 会社から帰って電気がついていないことが淋しい。瞳の料理を食べられないことが淋しい。瞳の小言を聞けないことが淋しい。家の中に瞳の気配がないことが淋しい。そして、だんだんと目につくようになってきた家の中のあれこれが、拓海に瞳がいない事実を突きつけてきて、それにまた淋しさがこみ上げる。棚の上の埃や洗面台の鏡のウロコ汚れ、風呂椅子の水垢など時間が経つにつれてそういう汚れが目立ってきて、それらがまるで瞳の痕跡をこの家から消していくようなそんな気がしたのだ。

 どれも瞳と暮らしていたころには一度だって気にしたことのない汚れだ。瞳はそういう細かいところにまで気を遣っていたのだと今になってようやくわかった。拓海にあれこれしてほしいとお願いしている以上に瞳のほうがいろいろとやってくれていて、快適な生活を守ってくれていたのだとわかった。

< 33 / 156 >

この作品をシェア

pagetop