別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
 瞳がいないことを実感するのが嫌で、拓海は休日のある日に家中を掃除して回った。隅から隅まで磨き上げた。瞳が大事にしてくれていたこの家を自分も大事にしたいと思った。そして、瞳が戻ってきたときに、気持ちよく過ごせる状態にしておきたいとそう思った。

 なかなか瞳のようにはできないだろうが、瞳に言われていたことを守り、時間のある時に気になる場所を掃除することくらい拓海にもできる。だから、拓海は自分のできる範囲で家の中をきれいに保つ努力をしはじめた。どうせ今は瞳のことが気になって、何にも集中できないのだから、家のことをやって気を紛らわすのはちょうどよかった。無心になって掃除すれば淋しさを感じなくて済むし、瞳が帰ってきたときに堂々と迎え入れることもできる。

 随分と面倒くさい生き方になってしまったなと思うが、拓海は今の自分が嫌いじゃなかった。二人の暮らしのために何かをしている自分というのが格好よく思えたのだ。瞳は今この場にいないのだし、ただの自己満足かもしれないが、それでも瞳を想って何かをしているという事実が拓海の心を軽くした。

 別居生活が始まってまだ一ヶ月。瞳が戻ってくるのはまだまだ先で、拓海はその間もずっと淋しさを募らせるのだろうが、瞳がいないことを淋しいと思える自分に気づけたことが拓海は嬉しかった。瞳と一緒にいる資格がまだきっと自分にはあるとそう思えたのだ。
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