別居恋愛 ~もう一度恋からはじめよう~
「ふふ、そうだね。拓海が勉強教えるの上手っていうのも、最近になって知ったし」
「そうか? 普通だよ」
「そんなことないよ。私も近くで聞いててよくわかったもん。私も拓海みたいなお兄ちゃんほしかったなー」

 よからぬ妄想が広がりそうになって、拓海は慌てて首を振ってそれを追い払った。

「お前……そういうこと言うなよ……」
「なんで? いいでしょ?」
「そりゃあ、瞳みたいな妹いたらかわいいだろうけど、兄妹じゃ結婚できないだろ?」
「へ? 結婚って……」
「俺と結婚しなくてもよかった?」
「……よくない……お兄ちゃんより旦那さんがいい」

 破壊力抜群のその台詞に拓海は両手で顔を覆って、今にも滾りそうな血をなんとか沈めた。

「瞳、ちゃんと自分の状況考えてから発言しろよ」
「え? 拓海?」

 拓海は瞳の頭の両脇に手をつき、瞳を上から覗き込むようにした。この体勢だと少しは意識するかと思ったが、瞳はただ不思議そうに見つめ返してくる。意識しているのが自分だけだと思い知らされて、拓海は面白くない。拓海を信頼してくれるのは嬉しいが、少しは意識してほしくて、拓海は瞳の頬に軽く口づけを落とした。

「へ!?」
「おやすみ」

 それ以上は歯止めがきかなくなりそうで、拓海は自分の布団に入ってさっさと目を閉じた。けれど、それはただ目を閉じているだけで、この日の拓海はなかなか眠ることができず、次の日は軽く仮眠をとってから自宅に帰る羽目になったのだった。
< 76 / 156 >

この作品をシェア

pagetop