月花は愛され咲き誇る
「私の舞もご覧になって下さいな」

 甘えるような声を出し、燦人の腕に手をそえる鈴華。そんな彼女に少し困った表情をして燦人は長に視線を戻した。

「鈴華どのはこう言っているが……良いだろうか?」
「え? いえ、その……娘は……」
「ねぇ、良いでしょう? お父様」

 愛娘を手放したくない長は躊躇っているが、このままでは誰も選ばれぬということになる。
 期待し、盛大な宴まで用意したというのにこのままでは長としての威厳すら怪しくなってくると思ったのだろう。
 愛娘の願いというのも手伝って、最後には頷いていた。

「はい、そうですな。鈴華の舞も見てください」

 引きつった笑顔でそう言った長に、鈴華は「ありがとうお父様」と無邪気にも見える笑顔で答える。
 そして立ち上がると艶然(えんぜん)と微笑み、舞台へと向かった。

 その背中を見送りながら、香夜は接待はどうするのだろうと小首を傾げる。

(……まあ、休憩出来ると思えばいいか)

 そう切り替えて上座の隅に控えつつ一息ついた。

 やはり体が怠い気がする。
 今日は早い時間から動きっぱなしだったのだ。昼食もまともに食べられず、夕食も移動しながら口に突っ込むようにして急いで食べた。
 それにやはり、昼とはいえ冷水を浴びてしまったのは不味かった。
 着物を守るためとはいえ、背中側はほぼすべて濡れてしまっていたから自分で思っていたよりも体が冷えてしまったらしい。
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