月花は愛され咲き誇る
(だが、やはり違う)

 舞を素直に美しいと思う反面、求めた気配ではないことに瞬時に関心が失せる。

(何故だ? 確かにいると思うのに……。やはり年齢が違ったのだろうか?)

 視線は鈴華に向けておきながら、思考は次へと切り替わる。

(こうなったらしらみつぶしに月鬼の女性に舞ってもらうしか……)

 そう考え始めた頃には鈴華の舞が終わっていた。
 周囲が多大な期待を彼女に寄せているのが分かる。
 長はとても複雑そうではあったが、彼女が選ばれると信じて疑っていない様に思えた。
 この雰囲気を壊すのは気が引けたが、だからといってあの気配の主を諦めることだけは出来ない。

 自信満々な笑みを浮かべながら上座に戻ってくる鈴華を視界に捉えて、困った笑みを浮かべたときだった。――周囲の空気が、一変した。

 一変した原因でもある周囲の視線の先を見ると、舞台の上に娘が一人立っているのが見えた。
 瞬間、ドクリと心の臓が動く。期待が溢れてくる。

 白鼠(しろねず)の色無地に、月下美人の花の刺繡が入った黒地の帯。
 他の娘達と比べると質素な出で立ちだが、月明りの下に佇む彼女の髪色にはその素朴さが何よりも合っている気がした。
 真っ直ぐな灰色の髪は、煌々とした満月の明かりで白銀にも見える。
 そうして静かに舞を始めた彼女に目を奪われた。

 鈴華ほどの華やかさも美しさもない。舞の出来とて、事前の彼女と比べると不出来だ。
 だが、それでも惹きつけられる。

「燦人様、私の舞はいかがでしたか?」

 戻ってきたらしい鈴華が近くに来て何かを聞いてきたが、耳には入ってこなかった。
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