月花は愛され咲き誇る
文句を言われたことに若干の不満はあるものの、驚きの方が勝り戸惑いながら近くに座る。
するとすぐに用意していたらしい包みを渡された。
「日宮の若君が滞在する間はそれを着て仕事をするんだ。みすぼらしいなりでうろつかれたら品位を疑われかねないからね」
不満そうに言い放つと、養母はまた机に向かい書き物を始めてしまう。
「はい、では失礼致します」
聞いているのか定かではないが、一応断りを入れて頭を下げる。
養母の書き物の邪魔にならないようあまり音を立てず襖を開けると、「香夜」と珍しく名前を呼ばれた。
「あ、はい……」
先ほどから珍しいことばかりだと思いながら返事をすると、彼女はこちらを見もせず言葉を発する。
「……お前は舞うんじゃないよ」
静かに告げられた言葉に、やはりいつもの養母だと思った。
日宮の若君が所望しているのは十六から二十の年頃の娘。十八になったばかりの香夜も当然それにあたる。
若君の前で舞うなということは、選ばれるわけがないのだから舞う必要はないということだろう。
だが、もとよりそんなことは分かっている。
こんなみすぼらしい髪色で舞っても、美しい茶色の髪を持つ他の娘たちの引き立て役にしかならない。
香夜は自嘲し、「分かっています」と返事をすると今度こそ養母の部屋を後にした。
するとすぐに用意していたらしい包みを渡された。
「日宮の若君が滞在する間はそれを着て仕事をするんだ。みすぼらしいなりでうろつかれたら品位を疑われかねないからね」
不満そうに言い放つと、養母はまた机に向かい書き物を始めてしまう。
「はい、では失礼致します」
聞いているのか定かではないが、一応断りを入れて頭を下げる。
養母の書き物の邪魔にならないようあまり音を立てず襖を開けると、「香夜」と珍しく名前を呼ばれた。
「あ、はい……」
先ほどから珍しいことばかりだと思いながら返事をすると、彼女はこちらを見もせず言葉を発する。
「……お前は舞うんじゃないよ」
静かに告げられた言葉に、やはりいつもの養母だと思った。
日宮の若君が所望しているのは十六から二十の年頃の娘。十八になったばかりの香夜も当然それにあたる。
若君の前で舞うなということは、選ばれるわけがないのだから舞う必要はないということだろう。
だが、もとよりそんなことは分かっている。
こんなみすぼらしい髪色で舞っても、美しい茶色の髪を持つ他の娘たちの引き立て役にしかならない。
香夜は自嘲し、「分かっています」と返事をすると今度こそ養母の部屋を後にした。