月花は愛され咲き誇る
 涙目で顔を抑えながら前方を見ると、そこには何もない。ただ続く縁側が見えるだけ。

(あ、もしかしてこれって……)

「ふふふ……香夜ってばぶつかるまで気付かないなんて」

 見えない壁の正体に気付くと同時に、庭園の方から軽やかな声が掛けられる。
 彼女の名にもある鈴を転がしたような可愛らしい声。
 ゆるくうねった髪は薄茶色。茶色の目も光の塩梅(あんばい)によっては金に近く見える。
 かつての美しさに一番近しい娘として一族から一目置かれている彼女は、長が殊の外可愛がっている愛娘だ。

 一応香夜の方が先に生まれたので鈴華は義妹ということになるのだが、年は同じなので姉妹の上下感覚はほぼない。
 どちらにしろ鈴華は香夜を下に見ているので姉妹感覚は皆無だが。

「本当に。結界があることすら気付かないなんて無能にもほどがありますわ」

 そして彼女の周囲にはいつも付き従っている取り巻き――もとい、友人達がいた。
 結界とは月鬼の女性だけが持つ特殊能力だ。
 香夜には分からなかったが、今ぶつかってしまった見えない壁も結界なのだろう。
 分からなくとも、昔から似たような方法で嫌がらせをされてきたので嫌でも理解した。
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