月花は愛され咲き誇る
「三津木の姓を名乗っているというのに……本当、鈴華様とは大違い」

 ここぞとばかりに持ち上げる少しふくよかな友人も結界は張れなかったはずだが、蔑むように香夜を見ている。

 香夜に心だけでなく目に見える傷もつけてきたのは決まってこういう同年代の娘達だ。
 流石に今傷をつけられてはたまらない。

 何より、早く着替えなければ集合時間に間に合わない。
 多少の反感はあるものの、それを見せると長引くので面倒だ。
 香夜はいつにもまして感情を押し殺し、黙って嵐が過ぎるのを待つ。

「お母様に呼び出されたみたいだけれど……その包みは何かしら?」

 優美に微笑みつつも目ざとく香夜の抱える包みを指摘する。
 ことごとく大事なものを壊されてきた記憶が蘇り、思わず包みをギュッと掴む。
 だが、大丈夫と自分に言い聞かせた。
 この着物は日宮の若君を迎えるためには必要なものだ。養母がそう判断して自分に渡したものなのだから、ちゃんと理由を話せば汚されたりはしないはずだ。

「……これは着物です。みすぼらしいなりでうろつかれては品位に関わると言われて渡されました」

 言葉を選ぶように慎重に紡ぐ。
 こう言えば大丈夫だろうとは思いつつも、やはり不安はなくならない。嫌な感じに鼓動を速めながら鈴華の言葉を待った。
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