幽霊の依子さんは 今日も旦那様を愛す
翌日。

私、姫川弥生はいつものように満員電車に乗っていた。

電車に揺られて体が前後左右に揺れる。
全方位をばっちりホールドされていて身動きが取れない。

でも、いつもと違うのは大路さんが隣にいるということ。


つい5分前。
ホームで電車を待っいたら、大路さんに声をかけられたのだった。
挨拶を交わしたところで電車が入ってきた。
そのまま私達は車内へ乗り込んだ。


乗客に押されて大路さんに体がぶつかる。

背が高いな。
何センチあるんだろう?

隣に立つ大路さんの顔を見上げた。

私を見下ろしている大路さんと目が合った。
見られていると思っていなかった私は心臓がどきんといった。

「姫川さん、ここ持ってくださいね」
大路さんは私の手を取り、自分の腕に手を絡ませた。

「え?」
驚いて、大路さんと絡ませた腕を見て、再び大路さんの顔を見上げた。

「姫川さん、どこも持っていないでしょう。
危ないですから私の腕を持っていてください」
「あ、ありがとうございます」

ドキドキしているのが自分でもわかる。
大路さんの腕は思っていたよりずっと筋肉質で硬かった。

ガタン。

電車の揺れで大路さんにすがってしまう。
腕を絡めているせいで、胸が大路さんの腕に押し付けるようになってしまう。

は、恥ずかしい!!!!

「いつも何も持たずに立っているんですか?」
「え?」

「この時間はいつも満員電車でしょう?
姫川さんの身長だと、ここに立っているとつり革にもポールにもすがれないのではないかと思って」
「その通りです。
いつも鞄を前に持って電車の揺れに身を任せています」

「身を任せる?」
「前後左右の人に頑張っていただいてます。
奥にあるポールを持つと楽なんですけど、私のサイズだと、人が多すぎて出口にたどり着けなくなっちゃうんですよね」

苦笑いすると、大路さんは少し困ったような表情をした。

「それは困りましたねえ」
困ったような表情ではなく、困った顔だったと思うと可愛くてつい笑ってしまった。
他人事なのに、大路さんっていい人なんだろうな。


『次は~沢田~沢田~』
車掌さんの停車案内の放送が流れ、駅に停まった。

降りようとする客と乗りこもうとする客の波ができた。

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