幽霊の依子さんは 今日も旦那様を愛す
「はあー。おかしかったあ」
と笑った後、
「あの、すみませんでした」
と謝った。

「大丈夫、大丈夫。君の方こそ、首とか痛いところはない?」
「?」
「ん?」
「あ・・・」

私はさっきまで寝ていた。
目を開けたら私はこの人を下から見上げていた。
飛び起きたら、頭がこの人の顎とぶつかった。

以上のことから推察するに、私、多分この人の膝枕で寝てた。

「あの。もしかしたらなんですけど、私、あなたの膝枕で寝てました?」
「はい。隣でうとうと船を漕いで、電車が揺れると同時に、私の膝へ」

やっぱりまさかの膝枕だったーーー!
恥ずかしい!恥ずかしすぎる!
あまりの恥ずかしさに顔が熱を持っていることがはっきりとわかる!
もうやだ!穴があったら入りたいとはまさに今のことだー!

出て来い、穴!!
なんてことを思いながら、頭を下げた。

「す、すみませんッッ」

男の人は、「はははは」と楽しそうに笑うと、
「あまりに気持ちよさそうに眠ってらしたので、そのままにしていたら、つい私も眠ってしまったみたいで」
と言った。

「ええー。見ず知らずの私を膝枕して、そのまま寝ちゃうってすごくないですか?」
「ははは。本当ですね、あははは」

自分のことを『私』と言うダンディーなこの人は、低くて甘い声で笑った。
彼は40歳くらいだろうか。
整った顔立ちに、目じりの皺がかわいらしく、かっこよかった。

『次は~三川~三川~』
車内アナウンスの声で現実に戻った。

「あー。降りなきゃ」
きょろきょろと周りを見渡し、
「私も降りなきゃ」
と言って、二人で電車を降りた。


二人で並んで歩いて、逆方向の電車のホームへ移動した。

「あの、もしかして乗り過ごしちゃいまいた?」

来た道を戻る電車待つホームで、隣に立つおじ様を見上げた。

男の人は一瞬だけ天を見て目を細めた。
そして、こちらを見下ろし困った顔をした。

「・・・本当はどこで降りるはずだったのですか?」
「・・・大浜です」

「え?大浜?
ははっ。私も大浜ですよ。
大浜に着く前に起こせばよかった。起こさなくて申し訳なかったね」

「え?いえ。そこは謝るところではないですし。
私こそ。私のせいで降りれなくさせてしまってすみませんでした」

この後電車がきて、なぜか二人でのんびりと大浜まで話をするのだった。




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