聖女がいらないなら、その聖女をボクの弟のお嫁さんにもらいます。そして王国は潰れ、ボクたちは幸せになりました、とさ。
「悪い話ではありませんよエステリア・シャーロット様。私は、あなたを歓迎いたします」

 小さな手が大きく手を伸ばし、リュシアと名乗った少女はまっすぐな瞳で彼女を見ている。
 もし、この手を振り払ってしまったら、エステリアを用なし扱いをする国で暮らさなければならない。彼女は面倒ごとと云うものが嫌いだったため、結論は数秒で決まる。
 そもそも王太子との婚約だって、嫌だった。
 妹は、何故か自分を毛嫌いし、そして王太子に嘘の情報を流したり、悲劇のヒロインぶった事を何度かしたことがあって、とてもそれが嫌だった。

 断る理由なんて、なかった。
 あの二人の顔を二度とみられない、と思えるのならばと。

 小さな手を強く握りしめながら、エステリアは答える。

「よろしくお願いいたします、リュシア様」

「フフ、決まりです――いや、決まりだな。良かったなヨシュア!エステリア嬢がボクたちの国に来てくれるって!」
「ね、姉さ……ちょ、や、やめて、恥ずかしい……ッ!」
「え、姉さん?」

 笑いながら答える子供、リュシアは後ろで慌てて顔を真っ赤に染め上げている青年、ヨシュアに向けて笑顔で言うと、彼はリュシアの事を『姉』と呼んだ。
 つまり、エステリアの事を気に入っていた『弟』と言うのは背後に居た彼らしい。しかし、エステリアが一番衝撃だったのが、『姉さん』と呼んでいた弟よりも、子供の姿をして笑っている彼女が『姉』だという事に驚きだった。

「ちょ、ちょっと待ってください……あの、リュシア様、後ろの人はあなたの弟さん、なのですか?」
「うん、そうだよ。子供みたいな姿だけど、ボクの方が十歳年上だから」
「え……」

 全くそうには見えないと言う言葉を、エステリアは言う事なく飲み込んだ。
 そして、理解する。

 目の前の子供の姿をしている少女は、()()()()()()()()()()()()()()を。

「リュシア……リュシア様、あなた、もしかして――」

 何かを言おうとエステリアが口を開いた瞬間、リュシアは笑みを絶やさず、唇に指を一本置いてそれをエステリアに見せている。
 まだ、口を開くな、と言う事らしい。
 驚いた顔をしながら居るエステリアの事など露知らず、彼女を連れて行くと断言したリュシアに目を向けたのは、この国の次期国王である王太子、オスカーだ。
 今までのやり取りが気に入らないのか、睨みつけるようにリュシアに視線を向けている。
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