【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
「エルシアを国に戻すのが嫌なのですか?」
「そういう話ではない……」
「ならばいいではありませんか。殿下の御心を騒がせるじゃじゃ馬など、とっととリボンでも掛けて送り返してやれば」
「ベッカー!」
 
 鋭い叱責が殿下から飛ぶ。
 ここまで敵意に満ちた瞳を殿下が我輩に向けるとは……エルシアは我輩につくづく新鮮な思いを味わわせてくれる。

「そういうことを言わないでくれ……! 彼女は私たちを何度も助けてくれただろう!」
「確かにあやつは陛下の御命をお救いし、ミーミル王女の御病気を和らげた。しかしそれはもう過ぎたことです。彼女をここに留め置くことが、我が国の国益に適うのですかな? 戦で失われる多くの国民の命と比してまで、守ろうとすべきものだとお思いなのか?」

 殿下は無言で拳を握ると、その手首に嵌めた緑硝子の腕輪にもう片方の手を添えた。殿下は最近、公式の場を除き、ずっとこの腕輪を身に付けている。それはさして値の張る品には見えないが、大切な人から送られた物なのだと思わせた。

 そして殿下は糸が切れたように椅子に崩れ、額を抑える。
< 274 / 471 >

この作品をシェア

pagetop