桜ふたたび 前編
「澪の信用を失った原因は、何だろう……?」
ジェイは苦悩の表情を浮かべた。
「私にはわからない。どうしたら、澪の心を取り戻せるんだ?」
「心はいつも、ジェイのところにあります。離れていても、ジェイを想っています」
「愛しているけど、信用はできない。そういうことか? 残酷なことを言うんだな」
「残酷? 平気で恋人に会わせる、ジェイのほうが残酷です」
唇を震わせる澪に、ジェイは唖然とした。澪がこれほど感情的になった姿を初めて見た。
──何だ、そうだったのか。
誰に吹き込まれたのか知らないが、どうやら澪は、クリスに会わせたことを気に病んでいたらしい。
〈女のジェラシーほど怖いものはない〉と、アレクが嘯いていたが、実際はなんと可愛らしい。
ジェイは、尻がこそばいくなるような嬉しさに、口元の緩みを手で隠した。
「バカだなぁ、そんなことで拗ねてたのか? 前にも言っただろう? 彼女は友人だって」
ここで事実を説明しても、話を混乱させる。些末な問題にかかずらって時間を費やすのは、無益だ。
「私が愛しているのは、澪だけだ」
切なげに視線を逸らす澪のリングに、ジェイはいつものように唇を寄せる。
「私を信じて」
澪はもう、何も言わなかった。
その沈黙を、ジェイは完全に納得したものだと思いこんでいた。
❀ ❀ ❀
出発ゲートの前で、ジェイはそっと澪の体を抱き寄せた。
「気をつけて」
「さようなら」
ジェイは笑みを浮かべ、胸のなかの髪を撫でながら言った。
「すぐに逢える。New Yorkで」
ジェイは澪の頬にキスすると、冷たい唇に唇を重ねた。
そして、耳許で囁いた。
「愛してる」