桜ふたたび 前編

「自信がないんです」

「自信? 何の?」

「……ジェイを、信じ続ける……」

その告白に、ジェイは少なからぬ衝撃を受けた。

確かに、ビジネスにおいては策略も陰謀もある。女性関係も互いに損得ずくの付き合いだった。
しかし、澪に対しては、いつだって素のままだった。
それが、信じられない……?

ジェイは再び、うなだれた頭を見つめて、指でテーブルを叩きはじめた。

そのリズムが止んだとき、彼は問うた。

「どうすれば、澪は私を信じられるんだ? パートナーとしての証が欲しい? 結婚したいの?」

澪は下向いたまま再び首を振る。

ジェイは、意図のわからぬ相手に焦りはじめた。
その焦りが、ますます澪を追いつめる結果になった。

「澪、君の望むことなら何でも叶えてあげる。だが、結婚はできない」

ジェイは、きっぱりと言った。

愛情だけでは結婚できない。
父がフランス貴族の血統を妻に迎えたように、兄がギリシャ王室の傍系で海運王の娘を娶ったように、自分も家名とビジネスに有用であることを、結婚の第一条件に考えている。
これまでもいくつかの縁談が持ちかけられてきたし、今後もそうだろう。

ふたりの間に、重い沈黙が流れた。

ジェイは信じられない気持ちで、澪の伏せたまつ毛を見つめていた。

朝陽のなかで〈愛している〉と涙した。夕陽のなかで自ら口づけをした。澪の愛に絶対の確信を得たからこそ決心したのに、いったいどんな心境の変化が、彼女に起こったのか。
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