桜ふたたび 前編

「でも、凄いよねぇ。こんな写真だけで、名前も住所も電話番号までばれちゃうんだから」

「ちゃうよ、これや!」

千世はササッとスマホを操作し、完全犯罪のからくりを暴く探偵のように、澪の鼻先に突きつけた。

「ネタ元はこのインスタ。#ローマ旅行#噂の人。ほら、あんたの顔はちょっとぼかしかけてるけど、プリンスはばっちり写ってしもうてる。これが拡散されて、ネット民が探偵になって、あんたが犯人やて特定されたんよ」

澪は画面を流し見るだけ。ため息混じりに呟いた。

「怖いね……」

諦念したような澪に、千世はますます憤慨した。

「何、悠長なこと言うてんの! とにかくな、仕返ししたらんと!」

「仕返し……って?」

千世は、テーブルに肘をつき斜に体を乗り出して、凄んだ。

「SNSにはSNSや。〈プライバシーの侵害や!〉ってリプライして、炎上させたりぃな」

「そんなことしたら、かえって火に油を注いじゃうよ?」

「あんた、ほんまは誰の仕業かわかってるんやろ」

覗き込むように探られ、澪は数回瞬きをして、目を明後日に、それから小さく首を振った。

「こんな根も葉もないこと書かれて、腹立たへんの?」

澪は首を傾げた。

「でも……半分は本当のことだし」

「ほな、半分は嘘やんか!」

「わたしがクリスを傷つけてしまったことは、事実だもの」

ウッと息を詰まらせ、千世は言葉を探しあぐねて困り顔をする。
澪は慰めるように微苦笑した。

「そんな顔しないで。短い間だったけど、贅沢な夢を見させてもらって、愉しかった。
──それより、千世。結婚式のこと、お姑さんたち説得できたの?」

「アホ、澪。他人の心配している場合とちゃうやんか〜」
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