桜ふたたび 前編
千世の譴責に、ジェイは怒りを隠せなかった。
怒りの矛先は、自分自身に向かっていた。
澪は、どんなときでも誠実だった。嘘や誤魔化しで、質問に応じたことはない。彼女が沈黙する理由は、そこにある。
それなのに自分は、澪の疑問に、一度も真剣に取り合うことをしなかった。
それが、彼女の不信を招いた原因だったのだ。
千世は〈言いたいことは言ってやった〉と、清々した顔でティーカップを口に運んでいる。
ジェイは深く息を吐いた。
「もう一度、澪と話をさせてくれないか?」
最大限沈痛な面持ちを作る。
千世は一瞬だけ眉をひそめ、すぐさま横を向いた。
「無理ですよ」
「体のことが心配なんだ。頼む」
ジェイはテーブルに両手をつき、額が着きそうに頭を下げた。
今は千世だけが、澪へと繋がる蜘蛛の糸。
大袈裟だと嗤われようが、嘘臭いと非難されようが、澪に逢えさえすればいいのだ。
そのためになら、どんな大芝居でも打ってやる。
「や、やめてください」
客たちが、驚いたように注目している。
さすがの千世も、これは恥ずかしい。
「頭、あげてくださいって……」
それでも頭を下げ続けるジェイに、千世はおろおろと両手を前に、助けを求めるように、
「わかりました! わかりましたからぁ……!」
ジェイはゆっくりと顔を上げた。その唇が、静かに弧を描く。
「──では、今から私が言う通りに電話をしてもらおうか」
一変して、有無を言わせぬ口調。
──はめられた!
逃れようのない状況に、千世は天を仰いだ。