桜ふたたび　前編

2、イエスかノーか

澪は、硬い面持ちで、京都駅のコンコースに俯き立っていた。

やはり来るのではなかった。もしも千世の耳に入ってしまったら、確実に友情に罅が入る。
わかっていながら、なぜ来てしまったのか──。

昨夜、何度もスマートフォンを手にした。
電話は大の苦手。相手の状況が見えないから、いま電話をかけても差し支えがないだろうかと二の足を踏んでしまう。それに、声だけでは相手の感情が読み取れなくて、返しを考えているうちに沈黙になってしまうし、切るタイミングもわからない。
そうは言っても、一度は受けてしまったのに、待ちぼうけを食わせるわけにはいかない。かと言って、何と切り出したらよいものか。

結局グダグダ考え悩んでいるうちに深夜を回ってしまい、悶々と朝を迎えていたのだ。

今からでも遅くない。かんざしは諦めて、お詫びの電話を入れよう。とにかくここを早く離れて……。
そう思っているのに、どうしても足が動かない。

平凡で波風のない毎日を願っている。だから常に、漣が立ちそうなときには回り道を選んでいる。
それなのに、思いもよらず大きな渦に直面してしまうと、なぜかその中心に視線が引き込まれて身動きできなくなってしまう。

今も岸辺に立っていた。
< 36 / 298 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop