桜ふたたび 前編
──何をやってるんだ!

プラットホームに流れる列車の接近案内に、ジェイは我に返った。

澪は首を折ったまま、辛そうに肩を上下している。
それもそうだろう。有無も言わさず振り返りもせず、強引に引っ立ててきたのだから。

詫びなければと理性では思っていても、プライドが邪魔をする。謝罪の仕方など、教わったことがない。

ふたりの間を生暖かい風が吹き抜けていった。
気の早い台風が九州に上陸しそうだと、キャリーバックを転がし通り過ぎる男女が話していた。

やがて列車のヘッドライトが近づいてきた。雨のカーテンを突き破り、眩い光がゆっくりとふたりの前を通過してゆく。

ジェイは視線だけを向けて、澪の表情を観察した。

無体な所業を詰るでもなく、掴まれた手を振り解くでもなく、困惑した目で、それでも口元に笑みを作ろうとしている。

いったいこの霞のように摑み所のない態度を、どう解釈すればよいのか。
ここでもまた答えに辿り着けない。

確かなことは、今、捕まえておかなければ、二度と手に入らないということだ。

列車のドアが開き、数人が降り、何人かが乗り込んでいった。

ジェイは無言でタラップへ上がった。

「さようなら……」

背中にかけられた声が、か細く震えていた。
罪悪感に似た心臓を鷲掴みされたような痛みと焦燥感に、考えるより先に、体が動いた。

「?」

そのとき澪は、甘い香りのなかで、背後のドアが閉まるのを聞いていた。
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