桜ふたたび 前編

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タクシーを降りたとたん、激しい雷雨が襲ってきた。
バケツをひっくり返したような雨足に、アパートの外階段を駆け上がり、玄関に飛び込むわずかな間に、ふたりはびしょ濡れになった。

部屋へ雪崩れ込んだふたりは、互いの姿に笑い合った。

濡れた浴衣が澪の肌に吸いついて、からだの線が露わになっている。
ジェイの瞳には、送り火の熾がまだ宿っている。

澪の顎に指を添え、唇を寄せる。
ジェイの髪から滴り落ちた雨の雫が、澪の頬を滑り落ちた。

屋根を叩く雨音が、物音も息遣いもかき消してゆく。
激しく口付けを交わすふたりの耳に、地響きのような雷鳴が轟いた。


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薄闇のなか、床に俯した澪の裸体は、項から踵まで滑らかな丘陵を描き、艶やかな肌は微光をまとっているかのように眩い。

片膝を立てて座り、その美しさに見惚れていたジェイは、これは神の彫刻なのかもしれない、と真剣に思った。

思わぬ拾い物だった。

男性経験は少ないだろう。
体も心も、まだぎこちなくかたい。最初の夜には、まるで背徳感を抱いているのかとさえ感じた。

しかし、からだの相性は抜群にいい。

恥じらいながらも従順で、ひとつひとつの反応が初々しい。声を抑える仕草も、堪えきれずこぼすか細い声も、たまらなくそそる。

時間をかけてゆっくりと解きほぐし、じっくりと手をかけて教え込めば、ますます官能的なカラダに育つだろう。

己の導きによって変貌してゆく様を見てみたいと思うのは、雄の本望だ。
まさか、自分にもそんな生臭い開拓精神があったとは、驚きだが。

これまで、男と女など、始まりが終わりだと考えていた。
元が打算の産物だ。一度関係を持てば目的は達成され、あとは急速に関心を失ってしまう。

性技に長けた女もいた。芸術品のような肉体をもつ女もいた。
しかし、澪のように余韻を残す女はいなかった。

からだの相性だけではないのだろう。
彼女は渇いた大地を潤す泉だ。
たとえ悪意をもって汚そうとしても、決して穢れず、決して涸れず、そうして永遠に、処女の清らかさを失わない。

そっと肩に触れると、澪は薄く瞼を開き、菩薩のように微笑んだ。

「……ヒリヒリします」

灯りをつける余裕もなく、ただ激情のまま彼女を貪った。
見ると、壁や床で擦ったのか、肩口や膝が赤くなっている。

まるでティーンエイジャーの如き狼藉に、ジェイは頭をかいた。ゆっくりと解きほぐすとは、どの口が言えたことか。

雨は降り止まない。
大地の熱を和らげる慈雨のように、澪の静穏な心が胸に染みこんでくる。

ジェイは澪を抱き上げベッドへ降ろすと、ふたたび、慈雨を求めた。