忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―
 バイトが終わったあと。

 亜美は一人で建物を出た。

 以前なら。

 丈がいる日もあった。

 少し話して。

 一緒に帰ったこともあった。

「…………」

 あの頃は。

 何も考えていなかった。

 丈がいることを。

 当たり前みたいに思っていた。

 聞けば。

 答えてくれる。

 呼べば。

 振り向いてくれる。

 会いたいなんて。

 思う必要もなかった。

 いつでも。

 会えたから。

「…………」

 亜美は足を止めた。

 スマートフォンを取り出す。

 丈との画面を開く。

 返事は。

 ずっと来ていない。

 それでも。

 指が動いた。

『先生』

「…………」

 続けようとして。

 止まる。

 何を。

 話したいんだろう。

 幸也のこと?

 大学のこと?

 バイトのこと?

「…………」

 どれも。

 違う気がした。

 一度。

 文字を消す。

 もう一度。

 打つ。

『会いたいです』

「…………」

 送信ボタンの上で。

 指が止まった。

 今まで。

 丈のところへ行くときには。

 いつも理由があった。

 聞きたいこと。

 分からないこと。

 話したいこと。

 でも。

 今は。

「…………」

 指先が。

 送信ボタンに触れた。

『会いたいです』

 送ってしまった。

 画面に。

 自分の言葉が残る。

 亜美は。

 じっと見つめた。

 一分。

 二分。

 画面を閉じる。

 歩き出す。

 数歩で。

 また開いた。

「…………」

 返事はない。

 スマートフォンを胸元へ寄せる。

 さっき送った言葉を。

 もう一度見る。

『会いたいです』

 今まで。

 何を話しても。

 どんな自分でも。

 丈は。

 全部。

 受け止めてくれた。

「…………」

 だから。

 もう一度。

 会いたかった。
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