忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―
 外へ出る。

 夜の空気が頬に触れた。

 それでも帰れなかった。

 建物の前に立ったまま、道の向こうを見る。

 人が来るたびに顔を上げる。

 先生?

 違う。

 次の人を見る。

 また違う。

「…………」

 スマートフォンを見る。

 返事もない。

 もう来ないのかな。

 今日も会えないの?

 胸の奥がきゅっと縮む。

 明日は?

 明日も会えなかったら。

「…………」

 嫌。

 そんなの嫌。

 亜美はスマートフォンを握りしめた。

 会いたいって送ったのに。

 待ってますって送ったのに。

 何も返ってこない。

 先生。

 会いたい。

「…………」

 もう会わない。

 丈の言葉が浮かんだ。

 胸の奥が冷たくなる。

 本当に?

 本当に、もう会ってくれないの?

 嫌。

 先生。

 もう一度、スマートフォンを見る。

 何もない。

「……先生」

 小さく呼んでも返事はない。

 帰りたくない。

 だって。

 帰ったら、先生に会えない。

 それでも、いつまでもここにはいられない。

「……帰ろう」

 小さく呟く。

 足がすぐには動かなかった。

 もう一度だけ道の向こうを見る。

 いない。

 亜美は俯いて、一歩踏み出した。

 そのとき。

「亜美」

「…………!」

 身体が止まった。

 振り返る。

 少し離れたところに。

 丈がいた。

「先生……」

 いた。

 先生だ。

 張りつめていたものが、一気にほどける。

 亜美は丈のところへ歩いた。

 気づけば、足が速くなっていた。

「先生」

「うん」

 目の前にいる。

 ちゃんと。

 丈がいる。

 それだけで、息ができた。

「待ってた?」

「……はい」

「ずっと?」

 亜美は少し俯いた。

「……はい」

「そっか」

 丈の声を聞いているだけで。

 さっきまでの不安が静かになっていった。
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