忘れられないよ君は―初恋だけでは終われない―
 気づけば、さっきよりもずっと近くに丈がいた。

 目が合うだけで胸が落ち着かない。

 好きだと分かったから。

 好きな人として、丈を見ているから。

「亜美」

「……はい」

「こっち見て」

 ゆっくり顔を上げる。

 目が合った。

「そんなに緊張してる?」

「……してます」

「そっか」

 丈が少し笑う。

「笑わないでください」

「ごめん」

「笑ってます……」

「うん」

「……先生」

 その声まで近い。

 胸がまた大きく鳴る。

 丈の手が亜美に触れた。

 亜美は小さく息を呑む。

「亜美」

「……はい」

「大丈夫?」

 緊張する。

 でも。

 離れたいとは思わなかった。

「……大丈夫です」

 亜美は丈の肩を掴む手に力を込めた。

 息が触れそうな距離で、また目が合う。

「亜美」

「……はい」

 丈が少しだけ間を置いた。

「名前呼んで」

「…………先生……?」

「それじゃなくて」

「…………」

「名前」

 ずっと知っていた名前。

 でも。

 口にしたことはなかった。

「……無理です」

「どうして?」

「…………」

「好きって言えたのに?」

「それとは違います……」

 丈が少し笑った。

「そっか」

「…………」

「じゃあ、待ってる」

 急かされるより。

 その方が困る。

 丈は何も言わず、亜美を見ていた。

 亜美は小さく息を吸う。

「……丈さん」

 初めて呼んだ。

 丈の表情が、ほんの少しだけ変わった。

「うん」

 その返事に胸が鳴る。

「もう一回、呼んで」

「…………っ」

「亜美」

 すぐそばで名前を呼ばれる。

「……丈さん」

「うん」

 名前を呼んだだけなのに。

 胸の奥がくすぐったい。
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