澄ましたメイドのご主人様。


「お休み中でしょうか? 起きてください,茉悧様」



きっと茉悧様を小さい頃から見てきたのだろう。

それでいいのかと驚くような気安さに,おかしそうな柔らかな声。



『……いいよ』



気だるそうな声が届く。

土曜の昼過ぎ,まさか本当に寝ていたなんてと,少しだけ瞳孔が開いた。



「では,私はここで。一言お声がけしたら,返事を待たずとも入って大丈夫です」



とてもアバウトな指示。

私は茉悧様本人が私の存在を知っているかも分からないのに。

まあ,いい。

取り敢えず,まずは名前から。

私は尋ねられる事にだけ返事したらいいんだ。

きっと。

どうせ,茉悧様本人に拒否権はない。

私の家のため,旦那様の為。

旦那様から見た,茉悧様の為。



「初めまして,茉悧様。失礼しても,よろしいでしょうか」

「……誰? いいよ,珍しい。新しい家政婦さんかな」



私はそれには答えず,ガチャリとドアを開いた。

やっぱり,軽くはない。
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