澄ましたメイドのご主人様。
私はゆっくりと近づいた。

近づけば近づくほど,その美貌に瞳を奪われる。



「そんなに見つめられると照れるな」



照れてなんていない茉悧様がくすくすと笑った。



「すみません」

「俺の顔,気に入った?」

「気に入るだなんて,そんな図々しいことは思っていません。ただ……一般にイケメンと言われるような方の顔を見て顔をしかめる人は少ないでしょう」

「ふふ……そっか。正直だね,花蓮ちゃん」



背中がもぞりとこそばゆくなる。



「あの,呼び方なのですが……」



呼び捨てで構いません。

慣れないちゃん付けに,居心地悪く伝えようとすれば。

細く,長く,綺麗な腕に私は引き寄せられた。

驚いて目を見開くと,背中に柔らかな衝撃がやって来て,私は1度目を閉じる。



「花蓮?」



真顔で目の前の顔と対面した私の名を,茉悧様は呼んだ。



「はい?」



何かと素直に尋ねると,茉悧様は目を見開く。



「いきなり引っ張ったのに,悲鳴1つ上げなかったね」

「? 驚きすぎて,声を出す余裕もありませんでした」

「なるほど」



何が楽しいのか,茉悧様はまた1つ笑いを落とした。

腰かける茉悧様の横に,何故か背中をつけている私。

……動けない……

その私を覗き込むようにして右手を顔の横に置いている茉悧様を,伺うように視線を投げる。

……これは?

左には茉悧様の身体,右には腕で,左よりの上にはやわく笑む真意の分からない顔。

隙間は十分にあるけれど,この状況を作ったのが茉悧様なので,動いていいのかも分からない。
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