だって、しょうがない

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 会社のデスクに着いた愛理は、ホッと息を吐きだした。
 職場に来て安心するなんて、自宅ではそれだけ気持ちを張りつめていたんだと自覚する。

 朝の自宅マンション、TVからニュース報道を垂れ流しながら、何食わぬ顔で淳と向い合せに朝食を取ることが、こんなにも苦痛を伴う作業になるなんて思わなかった。
 裏切者と心の中で毒づき、砂を噛むように味のしない朝食を食べ、作り笑顔を張り付け会話をするのは、神経が焼き切れるようなキツい時間だった。

── 真面目に仕事をして、家庭も大事にしてきたはずなのに、なんで私がこんな思いをしなければならないの? 

 席に着いたばかりなのに、イライラと立ち上がった愛理は、気持ちを切り替えるために部屋の隅にあるコーヒーメーカーのスイッチを押した。自分のマグカップにコーヒーが注がれていく。香ばしい匂いが立ちのぼり、少しだけ癒されるような気がした。

 愛理は、株式会社AOAに勤めるインテリアコーディネーターだ。
 自社の設計士と依頼主と一緒に打ち合わせを重ね、依頼主のイメージや好み、ライフスタイルと合うように、素材のサンプルやカタログを用意。
 室内レイアウト、内装に使う壁紙やカーテンの材質や色、設備機器・照明や家具の選択・配置などを考え、より良い生活を提案するのが仕事の内容だ。

 デスクのPCを立ち上げ、依頼主と打ち合わせをするための資料をダウンロードしてまとめようとモニターに向かった。
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