だって、しょうがない
 佐久良の様子に由香里が少しムッとした表情で口を開く。

「そうよ、結婚なんかしたら相手の親や親戚一同がもれなく付いてくるんだし、他人同士が暮らすんだから良いことばかりなわけないじゃない。結婚は現実なの。色々あってしかるべきなの。それが嫌なら独身でいればいいのよ」

 独身主義の由香里がバッサリと言い放ち、佐久良はぐうの音も出ない。
 
 そんなタイミングで、ギフト包装をされたワイングラスが用意され、それを受け取った由香里が時計に視線を落とす。

「あと15分で約束の時間、ちょうどいいわね。移動しようよ」

 この後、婚約プレゼントを渡すため、美穂を含めた4人で食事をする予定になっている。
 美穂に会うかと思うと愛理は複雑な心境だ。
 どうしたって、見守りカメラが捉えた映像を思い出してしまう。自宅を留守にした隙に上がり込み、友人の夫と情事を楽しんでいた美穂の声が姿が、脳裏を過る。

 それでも今日の集まりに来てしまったのは、美穂がどういうつもりなのか、知ることが出来たらと思ってしまったから。
 淳の不倫相手が美穂だと、愛理は明言を避けていた。
 美穂が淳の不倫相手であることを、愛理が知っているとは、思っていないだろう。
 
 御曹司との結婚を控えた美穂が、今まで通り、良き友人のふりをしながら、何を言うのか。
 これまで何気なく聞き逃してしまった言葉の意味も今なら気付けるような気がしたからだ。


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