だって、しょうがない

21

◇ ◇
「ただいま」

翔が玄関を開けるなり、パタパタと廊下を急ぎ足で来た母親が、愛理のもとへ歩みよる。

「愛理さん、淳が……。本当にごめんなさい。親としてなんてお詫びをすればいいのか」

 と、翔からの電話で、あらかじめ事情を聴いていた母親に深々と頭を下げられた。

「あの、ケガもたいしたことなかったので……」

 愛理はどうしていいのか困惑して、翔へ助けを求めるように視線を送った。

「母さん、玄関でいきなりそんなこと言われて、愛理さんだって困っているよ。ちょっと、落ちつこうよ」

「それで、淳は?」
 母親は不安気な表情で翔へと問いかける。そんな母親へ、困り顔を向けながら翔は口を開く。

「入院させた。右手と肋骨が折れていたから、熱が出るかもって、パジャマとかタオルとかは、病院のレンタルだし、コンビニで下着や小物は買って置いてきたから心配いらないよ。内臓は傷ついていないから2.3日で退院できる」

 母親は、はぁーっ、と息を吐き出した。

「事情を聴く限りは、淳に非があるからなんとも言えないけど、派手にやったわね」

「話し合いの日を決めて帰ろうとしたところで、急に襲って来たんだ。愛理さんにケガさせて、手加減なんて出来ないよ」

「淳もこれに懲りて、少しは反省してくれるといいんだけど……」

玄関での話しが長くなりそうな気配に翔は話しを切り替える。

「とにかく、なにか食べさせて、夕飯も食べていないんだから」

「あっ、ごめんなさいね。愛理さんもお腹すいたでしょう。片手でも食べれるようにおにぎりを用意したの」

「すみません。ありがとうございます。お世話になります」


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