だって、しょうがない

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『愛理さん、明日は10時半に迎えに行くよ。それより今日の方が心配だな。何かあったらすぐに行くから連絡して』

『翔くん、ありがとう。今日は気持ちを強く持って行ってくるね。私だって、やるときはやるんだから!』

 メッセージと一緒に腕をムキッとさせているキャラクターのスタンプを送ると、すぐに翔からの返信がある。かわいいうさぎのキャラクターが”Fight”とエールを送ってきた。それを見て愛理は顔をほころばせた。

 土曜日、ホテルLa guérisonの前でタクシーを降りた愛理は、これから起こることを考えると、ギュッと奥歯を噛み締める。

愛理が身に着けている、総刺繍が施された花色(伝統的な青)のAラインのフォーマルドレスは、上品な長袖のデザインで、上手く腕の傷の包帯も隠されていた。

 ここ、ホテルLa guérisonは、ラグジュアリーホテルとランク付けされる高級ホテル。
 製薬会社の御曹司である田丸誠二と華道家の美穂の婚約式が行われるだけあって、格式の高いホテルが選ばれたのだ。

 愛理は、意を決したように大きく息を吐き出し、大理石が敷き詰められたエントランスを抜けた。
ホテルのロビーに足を踏み入れたところで、髪をアップにした由香里が手を振っている。
 
「愛理、ドレス似合っていて、凄い素敵! 編み込みした髪も可愛い」

「由香里も綺麗だよ。深いグリーンのドレスなんて難しい色を着こなして、さすがだね」

「ふふ、ありがと。あっ、あっちにクロークがあったよ。その紙袋預けたら?」

愛理は、パーティーバッグの他に光沢のある白地に金の縁取りがある紙袋を持っていた。

「あ、これ⁉ 美穂にあげようと思ってプレゼントを持ってきたの」

「この前、みんなでブカラのグラスあげたのに?」

 と由香里は目を丸くした。それに答えるように愛理は、こどものような笑顔を向ける。

「うん、たいしたものじゃないんだけど、ほんの気持ち」

「愛理ってば、優しいなぁ。じゃ、美穂の控室に寄ってプレゼント渡しちゃおうか。あっ、あそこで佐久良が手を振ってる」

  

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