だって、しょうがない

23

「愛理さん、おはよう。昨日は寝れた?」

 自宅マンションから荷物を引き上げたときに、SDカードの映像を見たショックとホテル暮らしの疲労感も蓄積されて、愛理は泣いた後、ぐったりと倒れ込むように眠ってしまった。
心配した翔の提案で、その日から、再び、翔のお部屋を使わせてもらっている。
 そのため実家に居る翔が、わざわざ迎えに来てくれたのだ。

 車の助手席でシートベルトをしながら、返事に悩む。
 昨日の婚約パーティーのせいか、今日の淳を交えた話し合いの不安からなのか、うつらうつらするのものの、熟睡が出来ないまま朝を迎えてしまった。でも、それを言うと翔に心配をかけてしまう。

「おはよう。早めにベッドには入ったよ」

 ウソではなく、本当のことを少しだけ言う。
 そんな愛理を横目でチラリと見た翔は、車を発進させ、前を見ながらポソリとつぶやく。

「それでも、寝れなかったんだ。目の下クマになってるよ」

「えっ、うそっ!」
 確かに、寝不足でクマになっていたけれど、お化粧するときに鏡を見た感じでは、ファンデーションで上手く隠せたと思っていた。お化粧をしたばかりなのに、すでに化粧くずれが始まっているのかと、愛理は慌てて、バッグの中からファンデーションのコンパクトを取り出して、鏡を見ると……。
「あれ?」
 見た感じは大丈夫そうだ。

 赤信号で車が停車して、翔が愛理の顔を心配そうに覗き込む、車内の空気が動いて翔から爽やかなグリーンノートがフワリと漂う。

「やっぱり、寝れなかったんだね。まあ、色々あったから仕方ないのか」
 
 近い距離で見つめられ、恥ずかしさで視線を泳がせた。
 そして、ハタと気づく。

「翔くん、カマかけたのね!」

 愛理が頬を膨らませ怒ったフリをすると、翔が「ごめん、ごめん」と笑う。

 翔の優しい気遣いに愛理の緊張がほぐれていく。

 

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