だって、しょうがない
 みんなと別れ、家へ向かう電車の中で、追跡アプリWatch quietlyを立ち上げた。淳が通った経路が赤い点線で表示されている。
 赤丸がついた場所を検索すると、チェーン店の居酒屋だった。
車窓からは、幸せそうな街の明かりが流れている。
それを見ながらポソリと呟く。

「私が遅い日なんて、浮気をしているなら絶好のチャンスのはずなのに……」

会社から駅の間の居酒屋に寄ったぐらいで、そのまま自宅へ帰っている。
でも、もしも、佐久良麻美と浮気をしていたなら。
今日、淳が浮気相手と会わなかったと言うのにも、納得がいく。
 女子会に参加していた佐久良とは会えないからだ。

 ── 佐久良か……。
 実家が華道家の美穂やエステサロン経営の由香里、セレクトショップを展開している佐久良。華やかな3人に比べたら、私なんて、インテリアコーディネーターと横文字の職業だけれど、ただのサラリーマン。
 佐久良から見たら、つまらない女に見えるんだろう。
 だからと言って、あからさまに淳が良かったとか言うなんて、浮気相手だと自分で白状しているようにしか思えない。

 疑い出したらキリが無い、証拠も確信も無いのに浮気相手を佐久良だと決めつけている自分に嫌気がさしてくる。
 いっそ、淳から離婚を切り出してくれたら、実家の工務店の下請けを外さないのを条件にして、話を勧められる。鬱陶しく思っているなら、手放してくれればいいのに……。
 


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