だって、しょうがない

5

「遅くなって、すみません」

「いいのよ。どうせ淳がグズグズしていたんでしょ」

 淳の実家の玄関を開けると、廊下の向こうから、淳のお母さんが朗らかな笑顔を見せ、出迎えてくれた。

「ちがうよ。日曜日だからデパートの駐車場が混んでいたんだ。母さん、コレ、お土産と誕生日プレゼント」

 お土産やプレゼント。美味しい所は、自分のお手柄とでもいうように淳は、持っていたデパートの袋を母親へ手渡した。

「あら、ありがとう。愛理さんも気を使わせて悪かったわね。あがって、あがって」

 デパートの袋を受け取り嬉しそうに笑う淳のお母さんの横から、長い手がスッと伸び、その袋を奪って行く。
 ハタと気がついた淳のお母さんが声をあげた。

「やだ、翔ってば、子供みたいな事をして、お母さんがもらったのよ」

「荷物を部屋まで持って行ってあげようと思ったんだよ」
 と翔は母親に言い訳をしてから、愛理に少し照れくさそうに顔を向けた。
「久しぶりだね、愛理さん」

 大手建設会社に勤める淳の弟の翔とは、1年ぶりの再会だ。髪を切り揃えた翔は、以前の印象より落ち着いた大人になっていた。

「翔くん、久しぶり。帰って来ていたんだ。また、背が伸びたんじゃない?」

「この年で背が伸びるとか、無いから! これ以上伸びたらあっちこっちにぶつかって、歩き難いよ」

そう言って、笑う翔は180センチを超す高身長。淳よりも5センチは高そうだ。

「おい、久しぶりに会ったお兄様には挨拶ナシかよ」

「兄キは、元気なの見ればわかるからいいんだよ」

 こうして3人で話していると、結婚前に淳の家へ遊びに来ていた楽しい頃に戻ったようで、懐かしいような切ないような気持にさせられる。

「愛理さんは、少し痩せた?」

 翔から心配そうに顔を覗き込まれ、慌てて視線を逸らす。でも、最近、体の心配をしてもらう事もなかった愛理の心にさざ波を立てた。

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