だって、しょうがない
「そんなことないよ。ちょっと疲れているのかも……。あ、お義母さん。私、台所手伝います」

「ありがとう、男の子はホント、気が利かなくてね。いい娘が出来て嬉しいわ」

 クローズドタイプのダイニングキッチンに入る愛理と母親を横目で見送り、淳と翔はリビングルームのソファーに腰を下ろした。リビングにある大画面のテレビの中では、恋人同士が愛を語っていた。

「母さん、こういうの好きだよな」
 そう言いながら淳は呆れ顔で、リモコンのスイッチを手に取り、ザッピングを始める。

「女性は恋愛脳なんだよ。優しい言葉を掛けてあげないと、萎れちゃうらしいよ」

「結婚したらそんな事、めんどくさくてやってられないなぁ」

「兄キ、嫁さんは自分の所有物じゃないんだから大切にしないと、愛理さんに捨てられるよ。イマドキ実家に来て、母親と台所に入ってくれるような人なんて貴重なんだから、それに優しくて、愛理さんは、お嫁さんとしては理想だよな」

 翔の言葉に淳は鼻で笑う。

「結婚もしていないお前に言われても説得力がないな。嫁さんねー。愛理は、色々やってくれるし、妻としては理想的ではあるけど、長い事一緒に居ると女としてはなぁ」

「ふ~ん。兄キから見て、愛理さんってそんな評価なんだ。大事にしないで後で泣いても知らないぞ」

 翔は揶揄うような瞳を淳へと向けた。それを面白く思わない淳がテレビに顔を向けたまま言葉を吐く。

「何で、俺が泣くんだよ。女なんていくらでもいるんだ。お前が、欲しけりゃくれてやるよ」

 そう言った淳の後ろ、部屋の入口ドアのあたりで、カシャンと食器が当たる音を立てた。
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