だって、しょうがない
「淳の不倫の証拠も手に入った。一番のネックは、私の実家が淳の会社から仕事をもらっている事だけ……」

そう呟いた愛理は、残りのミネラルウォーターを飲み干し、空になったペットボトルをゴミ箱へ投げ捨てる。

「東京に帰ったら、実家へ行って淳と離婚をしたいと伝えてみよう。無駄でもなんでも動かないと何も変わらない」

 現状を維持しても何も良いことはない。一歩一歩前に進んで、今の状態から抜け出す。そして、自分の居場所を見つけたい。誰かのために頑張るのではなく、自分のために頑張ろうと、心に決めた。

「望んでいた結婚とだいぶ違っちゃったな。……しょうがない。まさか、淳があんな人だと思わなかったんだから。若い頃の私ってばホント見る目が無かったんだ。でもなぁ、結婚してからあんなに態度が変わるなんて、わかるはずないじゃない」
 
 そう言って、細く息を吐き出すと、ホテルの備え付けのメモにペンを走らせ始めた。

「まずは、東京に帰ったら実家に行って離婚の話をするでしょ。で、弁護士さんを探して、離婚に向けて相談と……。あっ、美穂に慰謝料の請求もして……。離婚が成立したらどうしようかな」

 メモには、箇条書きにした離婚へ向けての段取りが書き出されていた。
 ふと、北川のことを思い出し、ペンが止まる。
 
 配偶者を裏切ったという点では、自分も同罪。
 それに、もう一度会う約束をしてしまった。

 女性として大切にされ、女性としての自信を与えてくれた北川に惹かれてしまう。
 
「今だけの関係か……」

 愛理のつぶやきが空に溶けていく。


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