だって、しょうがない

11

 再び会う約束に心を温かくして、愛理は自分が宿泊しているホテルへ戻った。
 ドアを開けカードキーをホルダーに差し込む。それに反応して、シーリングライトが灯り、部屋の中が浮かび上がった。
 飲みかけのミネラルウォーター、脱ぎ散らかした部屋着。そして、テーブルの上に伏せられたタブレット。
 
 夢のような時間が終わり、現実が待ち構えていた。
 急に喉の渇きを感じ、部屋に備え付けられている冷蔵庫から新たなミネラルウォーターを取り出し口をつける。
 流れ落ちていく水に喉の奥が冷やされていく。

 一息ついて、テーブルの上のタブレットを手に取る。タイムアウトで画面は真っ暗だ。
 サイドにある電源ボタンを押して、見守りカメラのアプリをタップする。すると、部屋を出る時に設定したままの状態で、クラウドが2台のカメラの録画を続けていた。
 
 画面をリアルタイムに切り替えた。リビングルームのカメラには誰も写らない。そこで、寝室のカメラへ視点を移す。すると、カメラの暗視機能が効いたモノクロの映像が、ふたつ並んだベッドを映しだした。
 すでに情事は終えた様子で、シングルベッドにそれぞれが横たわり寝息を立てている。

 本来ならば自分の場所であったはずの場所に美穂が眠っている。東京へ帰って、あのベッドで眠るのかと思うと、ゾッとした。

「御曹司との結婚が控えているのにバカじゃないの!? 」

 思わず悪態が口をつく。
 軽い気持ちで結婚前に遊んだのかもしれないけれど、友人の幸せを壊すとは考えなかったのだろうか? そして、何よりも不倫関係が露呈したら、せっかく掴んだ御曹司との縁談に暗雲がさし、自分自身の幸せをも逃がす事態になるとは考えなかったのだろうか?
 
 そんなスリルも甘やかな蜜の味がしたのかもしれない。後で、苦味に変わるとも知らずに……。

 なんとも言えない気持ちになりながら、クラウドに保存していた分をUSBメモリに落とし、バックアップをしてからアプリを閉じた。
 手のひらの中にある小さなUSBメモリには、不倫の証拠が入っている。
 愛理は、何かを決意したように、それをギュッと握り込んだ。
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