だって、しょうがない

14

◇ ◇ ◇
 飛行機の窓から見える風景は、青い空の下、雲がどこまでも海の白波のように広がっていて、昔見たアニメみたいに好きな人と手を繋げば歩いて行けるような気がした。
 そんな幻想的な景色とは裏腹に、流れてきた機内アナウンスは、目的地東京はあいにくの雨模様だと告げている。

 隣りの席で、穏やかな寝息を立てている愛理から視線を外し、翔は自分の手の中にあるスマホの写真アプリを開く。
 スマホの画面に映る写真。そこには寄り添う男女の姿が映っている。それを食い入るように眺め、怪訝な表情で眉頭を寄せた。
 翔は気持ちを整えるように息を吐き出した後、愛理の肩へ手を伸ばし、軽く揺する。

「愛理さん、愛理さん。もうすぐ着陸するよ」

「ん、ごめん。翔くんが、せっかくアップグレードして隣り合わせにしてくれたのに……。私、眠ちゃたんだね」

「いいよ。疲れていたんでしょ。おかげで愛理さんの寝顔を観察できたから」

と言って、翔はいたずらな瞳を愛理に向けた。それに反応して、愛理の顔がみるみる赤く染まる。

「やだ、そんな恥ずかしいこと言って、からかわないで」

「子供みたいで可愛かったよ」

「もう! 年上のアラサーに可愛いとか無いんだから。あっ、福岡のメシテロ写真見せるって約束だったよね。コレ、いちごがすごいでしょ」

 愛理はスマホをタップして、太宰府へ行った時に撮影した写真を翔に見せた。
 その1枚1枚の写真を丁寧に眺めた翔は、「コレ、美味しかった?」とか「オレも食べてみたい」と感想を言い。
愛理の写真が、自撮り撮影ばかりで、あの男の影が無かったことに翔はホッとした表情を見せ、最後にひと言付け加える。

「オレも福岡で撮った写真があるんだけど、後で愛さんに見てもらいたいんだ」

「後でなんて、今見せてくれないの。 もったいぶってナニ?」

「ちょっとね。今は言えないんだ。あとで、必ず見せるからね」

 と言って、翔はシートベルトを気にするように何気なく視線を落とす。
 やがて、飛行機は着陸態勢に入り、羽田空港に到着する。
< 97 / 221 >

この作品をシェア

pagetop