だって、しょうがない
 南ウイングの到着ロビーで、翔は愛理の荷物を預かろうと手を差しだした。
 
「オレ、駐車場に車停めているんだ。家まで送るよ」

 ”家に帰る”そう思うと愛理の背筋にスッと冷たいものが走る。
 あの汚れてしまった家に帰って、美穂が寝ていたベッドで自分が寝なければいけない。それが、いよいよ現実のものになるかと思うと、気持ちが落ち込み急に足が重く感じられた。

「リムジンバスあるから……」

 すぐに帰りたくない気持ちが、遠回りのコースを選ばせる。

「ほら、天気も悪いし、キャスターバッグ持ってだと大変でしょ」

 放っておけない様子の愛理から、翔は半ば強引に荷物を受け取った。
愛理は諦めたように力のない声でつぶやく。

「うん、ありがとう……」

「どうしたの? 何か心配なことでもあるの?」

 翔から心配そうな顔を向けられて、家に帰りたくない理由を淳の弟である翔に言っていいのか、愛理は判断がつかずに視線を彷徨わせる。

「あの……途中で買い物できる店に寄ってもらえる? 欲しいものがあるの」

「いいよ。何買うの?」

「うん、家のシーツが汚れているんだ」

 出張から帰って来たばかりで、そんなことを言う愛理に違和感を翔は感じていた。
 
 エレベーターに乗り込み、駐車場連絡通路を渡る。
 その間にも、愛理はどこかのホテルに身を寄せようか?と、そんなことを考えてしまう。けれど、自宅ではなくホテルへ行くなんて、理由を訊ねられたら、なんと返せばいいのか答えが見つからない。

車までたどり着き、助手席のドアを翔が開く。

「愛理さん、散らかっているけど、どうぞ」

 行き先が決まらないまま、「ありがとう」と助手席に腰を下ろした。
そして、運転席に乗り込んだ翔が、エンジンもかけず、愛理へ顔を向ける。

「愛理さん、兄キと何があったの?」

「えっ!?」

 

 
 
 
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