長嶺さん、大丈夫ですか?
 隣の彼氏が、かっこよすぎる。
 

 お花畑になってしまった頭とにやけようとする口角を仕事モードに戻すため、私はひたすらキーボードを叩く作業に戻る。

 長嶺さんと正式に付き合いだしてから一週間。
 長嶺さんのスマホが静かになった代わりに、私の心臓の音の方がうるさくなってしまっていた。

 前日と同じ服で長嶺さんの家から出社することになったり、給湯室でキスしようねって言われた時はヒヤヒヤしてどうなることかと思ったけど、周囲が私たちの関係に気付く気配はまったくなく。

 私達は滞りなく上司と部下の関係を続けられている。

 ちなみに長嶺さんは、仕事中に彼氏感をおくびにも出さない。

 正直に言うと、長嶺さんのことだからなにかちょっかい出して揶揄ってくるんじゃないかと思っていた。

 だけどそんなことはまったくなく、付き合ってるよね?と不安になるくらい何もない。

 ……別にいいけど。

 
「長嶺くん、花樫さん。 ちょっといいかな」


 部長に声をかけられて、長嶺さんと二人でついていくと、部長が部屋の隅で声を潜めた。


「えーと……二人に会いたいっていう人が来てるんだが……」
 
「? 来客の予定特になかったと思うんですが」

「それが、会えるまで待つって言っててな……その……」


 部長は困ったように目線を泳がせた。







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