離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 いつだって隣にいて愛を囁いてくれたこと。

 そのどれもが幸せすぎて、だからこそ彼と別れることがどれだけつらく悲しいことか、考えるだけでも胸が苦しい。

 彼の愛を信じていないわけじゃない。

 玲司は物事を色々な方向から見て、ベストの選択ができる人だ。おそらく今出せる一番の選択をしたはずだ。

 だから私と一緒に過ごすよりも大切なものがあったとしたら……私は彼を応援すると言ったのだから、彼の決定に従うべきだ。

 わかっている、どれだけ私が縋りついても結婚はふたりの意志で成り立つものだ。私のひとりよがりではどうすることもできない。

 彼のことを思うならば、身を引くべき。わかっている、わかっているけれど。

 ふと玲司と結婚式の夜に話したことを思い出した。

『なにかあったら、必ずふたりで話し合おう』

 そうだった。勝手にひとりで結論を出してしまった。

 私はまだ自分の気持ちを彼に伝えていない。自分がどうしたいのか、そして彼がどうしたいのかまだなにも聞いていないのだ。

 彼が北山を継ぎたいと言った、それしか今わからない状態で結論を出すべきじゃない。

 私はベンチから立ち走り出した。気持ちが決まったら一刻も早く彼と話をしなくてはいけないと思ったからだ。

 そういえばずっとスマートフォンの電源を切っていたことに気づく。私は歩きながら電源を入れるとすぐに着信の画面に切り替わった。

 画面には玲司の名前が表示されていて、私はすぐに通話ボタンを押す。

『琴葉、いったい今どこにいるんだ?』

「なにも言わずにごめんなさい。近くの公園なの。今戻ってるから」

『そうか、俺も外にいるからそっちに向かう』

 心配して探しにきてくれていたようだ。それだけで胸が苦しい。こんなにも自分を心配してくれている相手を信じずにひとりで悩んでいたなんて。

「ありがとう」

 お礼を言って一度電話を切ると、道路の向こう側に彼の姿が見える。ものすごい勢いで走ってきているが、あいにく目の前の歩行者用信号は赤だ。

 彼もこちら側にいる私に気がついた。肩で息をしながらそれでも手を振ってくれている。

 一生懸命、私を探していたであろうその姿に涙がにじんできた。心配をかけるといけないと思い涙を手の甲で拭うと一生懸命彼に向かって手を振った。

 信号機はまだ青にならない。じりじりしながらひたすら待つ。
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