離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 どうしたらいいんだろう。私が玲司の邪魔になる? 

 どうするのが正しいのかわからずに、ぐるぐると考え続ける。

 私は尾崎さんが帰ったあとも、その場を動くことができずカフェで数時間過ごした。我に返ったのは、すでに帰宅した玲司が私が家にいないことに気がついて連絡をしてきたときだった。

 彼に相談しなくちゃ。

 私はそう思い、ショックで思考が停止したまま自宅に向かった。ただ彼に助けてほしかった。

 ――しかし、私を待っていたのは、玲司の衝撃的な言葉だった。

「俺、北山になる」

 それを聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。目の前で彼がなにか言っているけれど私はなにも話せず、なにも聞こえず、思考が停止してしまう。

 玲司が北山を継ぐってこと?

 だったら、私はどうなっちゃうの?

 尾崎さんの話では北山を継ぐことイコール私とは離婚するという内容だった。

 まさか相談する前に結論が出ていたなんて。

 嫌だ、彼と別れるなんてできない。つい最近応援するって言ったのに、その約束すら守れそうにない。

「ちょっと、ごめん。電話だ」

 玲司はそのままスマートフォンを持って、別室に入っていく。

 いったい誰からだろうか。私の知らないところで、私の幸せな生活が壊れていっている気がする。

 私は彼の顔を見ているのがつらくて、スマートフォンだけを持って玄関に向かう。彼に気づかれないように部屋を出た私は、行く当てもなくとぼとぼと近所を歩いた。

 何度かスマートフォンに着信があった。メッセージも届いていてぶるぶると震えている。

 しかしそれのどれにも応答したくないと思った私は、電源を切って近くの公園のベンチで空を見上げた。

 九月の後半になってやっと秋らしくなってきた。高くなった空にはうろこ雲が浮かんでいる。

 上を向いているのに、ほろりと涙がこぼれた。一粒こぼれたあとはとめどなく頬を涙が伝う。

 ギュッと目を閉じると、浮かんでくるのは玲司のことばかりだ。

 いきなり告白された日。毎月付き合った記念日には食事に行ったこと、ドライブが好きな彼に付き合って色々な場所に出掛けたこと。

 一年目の記念日にプロポーズされ、皆に祝福されて人生で一番幸せだった結婚式でのキスを交わしたこと。

 私の作ったハンバーグを『おいしい』と言ってたくさん食べてくれたこと。お義母さん直伝の肉じゃがだってやっと上手になってきたのに。
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