離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 彼が言い切ったタイミングで食事が運ばれてきた。

 正直助かったと思う。まっすぐに彼に見つめられると、自分を保つ自信がない。

「困らせたいわけじゃない。とりあえず、俺がそういう気持ちでいるってことを覚えておいてほしい。宣戦布告だな」

 にっこりと笑う彼は、これ以上になると私が困ることを察知して今日のところはひいてくれた。

 それもまた彼のやさしさだと思う。

 ダメだってわかっていても、それでもやはり気持ちは揺れ動いた。

「琴葉の好きなライスコロッケ、特別に作ってもらってるから楽しみにしていて」

「うん、うれしい」

 笑って返したけれど、そんな些細なことを覚えていてくれたことをうれしいと思う。そんな〝うれしい〟の積み重ねが、今後自分にどんな影響を及ぼすのか考えるだけでも恐ろしい。

 考えたってしょうがない。そうならないように気持ちを強くもつしか方法はない。私は開き直りに似た感情のまま、目の前の豪華な食事に向き合った。

「どれもおいしそう。いただきます」

 私は元気よく手を合わせると、目の前に並ぶ料理に手をつける。

「おいしい!」

 昔からお店を選ぶセンスが抜群の彼が連れてきてくれた店だ。はずれなはずない。私はこれ以上考えても仕方のないことを放棄して、今は食事に集中することにした。



 それから数週間。

 八月に入りみんなが夏休みをいつにするのか相談しはじめた頃だった。


 社内に歓喜の声が巻き起こった。

「京急建設グループの基幹システムの契約が取れたって」

 営業からの電話を受けた春香が、フロアに響く声で朗報を告げる。

「本当に!? 君塚が『どうせ負け戦や!』なんて言っていたのに」

「それがプレゼンで大逆転したみたいよ」

 創立はじまって以来の大きな契約に、みんなが笑顔で喜び合っている。

 これまでうちが担当してきた会社の規模から考えると、かなり大きな仕事になりそうだ。そして間違いなく会社が大きく成長する一歩になる。

「はぁ、すごいね。もうすぐ帰って来るかな」

 プレゼンの結果が出てすぐに連絡をくれたようだ。京急建設の本社とうちの会社はそこまで離れていない。

「早くおめでとうって言ってあげたいね」

 春香の言葉に、私もはやる気持ちを抑えきれずに笑顔でうなずいた。
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