離婚したはずが、辣腕御曹司は揺るぎない愛でもう一度娶る
 私の予想通り、電話で一報があってから一時間もしない間に、君塚と同行していた玲司がフロアに戻って来た。

「あ、帰って来た」

 一番に気がついた春香の声に、フロアのみんなが立ち上がり拍手でふたりを迎えた。

「おかえりなさい。おめでとう」

 声をかけると君塚も玲司も少しはにかんだ顔を見せていた。

「もうみんな知っての通り、難しいと言われていた京急建設の契約を君塚君がとってきた。みんな拍手でねぎらおう」

 玲司の言葉に、フロアの拍手の音がひときわ大きくなる。

 君塚はどこか落ち着きなさそうに、頭をかきながら「おおきに」とひと言お礼をいうにとどまった。

 その態度になんとなく違和感を覚える。

 いつもの彼なら、胸をはって「俺を褒めろ」といわんばかりの態度をするのに、今日はなんだかその勢いがなかった。

 どうしたんだろう。

 私の勘違いかもしれない。けれどなんとなくもやもやした私は、社内の祝福ムードが治まった頃フロアの外に出て行った君塚を追いかけた。

 自販機のあるリフレッシュブースに彼はいた。飲み物を飲むでもなく、奥にある窓からポケットに手をいれたまま外をながめていた。

「なに飲むの?」

 私の声に振り向いた君塚は「ブラック」と答えてまた視線を窓の外に移す。

 私は君塚の分のコーヒーと、自分の分のレモンティーを買うと彼の隣に立った。

「はい、これ。今日のご褒美」

 私の差し出した缶コーヒーを君塚は難しい顔をしながら受け取った。

「ご褒美なぁ」

 なんだか納得していないようだ。

「どうかしたの? あんまり喜んでいないようだけど」

 周囲の喜びと君塚のそれに、ひどく温度差を感じる。

 彼はため息をついて、それから重い口を開いた。

「今日のあの契約、俺じゃないんや」

「え、どういう意味?」

 京急建設は、中野社長から君塚が引き継いだ会社だ。しかし規模の大きさからやっと話を聞いてくれるようになった程度で、契約に結びつくまではまだまだだと、誰もが思っていた。

 しかし君塚はそんな中でも、かなり相手を研究してしっかりとした提案をしているように思っていたのだが。

「違うねん、たしかに俺も頑張ってた。でも最後の社長のひと押しが今回の契約に至った理由や」

 握りしめられたコーヒー缶がへこんでいる。

「そんなはずないじゃない」

 君塚が努力していたのを知っている私は、彼の言葉を否定した。
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